MUSIC WORLD BY MASANORI KATOH
 
奇人の作り方
 
 
 
 
 
 
 
 


 

5:オペラ「白虎」 初演鑑賞ガイド

 白虎の歴史的背景、オペラのあらすじを書いてきましたが、初演を鑑賞する上で、演出の意図など、舞台の事に関して、何となく全体の流れを把握しているとよりオペラが味わえるのではないかと思います。
 何しろ演出も相当に練り込まれ、考えられたすばらしいものですので。
 僕自身が稽古を見学しながらその深さに感激しています。
 白虎について知り、あらすじを見た皆様へ、鑑賞ガイドでございます。

1幕1場
舞台後方、高い位置から児童合唱の声が聞こえる。
この児童合唱は、日新館の少年らの声であり、神の国からの声であり、象徴的な存在。
舞台中央では、白虎の自刃の舞が剣舞されている。
そこへ飯沼貞雄が登場するが、剣舞を直視できない。白虎の亡霊の声が聞こえ、貞雄には生き残った事への責めの言葉に聞こえている。
剣舞は大詰め、自刃となり、周囲に歓声が沸く。
我慢できなくなった貞雄は、「黙れ!」と叫ぶ。
少年の声、亡霊の声が迫り、入り乱れて貞雄を襲う。
貞雄はそれらから逃れたいと、必死に子守歌を歌い続ける。

1幕2場
剣舞をしていたのは、実は過去の貞雄自身であった。驚く貞雄。
けたたましい鐘の音が鳴り、薩長の行軍歌が聞こえる。舞台を取り囲む様に合唱隊がいる。
合唱隊が仮面をしているのは、それが薩長側である事を表す(仮面をとる時は会津人)。場面は貞吉の叔父、西郷頼母邸の玄関に変わっている。
叔母千重子が登場。戦への身支度を整えた貞吉の姿を見て、一瞬たじろぐが動揺を見せまいと厳かに振る舞う。
貞吉の母があてた歌を聞き、親の覚悟を感じた取った千重子は、貞吉へ会津武士としての心得を説く。(アリア)
頼母邸を去ろうとする貞吉に、千重子は叔父に挨拶をしてからいくように言う。
それを拒む貞吉。その騒ぎを聞き、頼母が出てくる。

1幕3場
頼母は貞吉にこの戦に勝ち目のない事を告げるが、貞吉は猛反発する。
頼母は命を捨てるだけが武士の誇りではないことを説く。(アリア)
しかし貞吉は「ならぬことはならぬものです!」と拒絶する。
頼母は貞吉をとても愛おしく思い、実は貞吉も聡明な叔父を強く尊敬している。
貞吉の様な若者を巻き込む様な世の中にしてしまった事に頼母は怒り、絶望している。
普段は冷静な頼母も次第に激情していく。たじろぐ貞吉。そこへラッパが鳴り響き、貞吉は母親からもらった別れの歌を歌い、戦場へと急ぐ。
迫り来る薩長の行軍歌、鐘、ラッパ、老年の貞雄はこの混乱の中を彷徨う。
鐘は次第に大きく、あちらこちらから聞こえ、入り乱れる。

2幕1場
白虎の鎮魂の声が聴こえる。
悲しき会津の歌が歌われる。白虎の精鋭の一人一人が死の戦へ向かっていく光景が厳かに描かれる。
貞吉の脳裏から頼母との別れ際の会話が離れない。
やがて頼母との心の会話が始まる。
天上からは日新館の少年らの声も混じる。「ならぬことはならぬものです!」「私は死ぬ!」ついに戦が始まる。
頼母が戦の光景の中で困惑し、絶望している情景が描かれる。
圧倒的な薩長の群栄が迫り来る。

2幕2場
再び白虎の鎮魂の声。
西郷頼母邸。
会津に残った女、老人、子供達はいよいよ鶴ヶ城へ籠城するということになった。
しかし千重子は足手まといになるだけだからと、先に自刃することを決意する。
8歳の田鶴子(たづこ)、その妹の常磐子(とわこ)を続けて刺し殺す。
そして末娘、2歳の季子(すえこ)を刺そうとするが、その笑顔を見て、手が震えて刺せなくなってしまう。
千重子、辞世の句、「なよ竹の 風にまかする身ながらも たゆまぬ節は ありとこそきけ」を読み、絶叫し刺し殺す。
それぞれの刺す場面は屏風で隠されているが、季子殺害の後、屏風が倒れ、死んだ季子と、季子が大切にしていた手まりが、布団の上に転がっているのが見える。
放心のまま、千重子も自刃する。
老年の貞雄が登場。死んだ季子を必死に抱き、子守唄を歌う。

2幕3場
騒々しい音楽と共に、戦場より退散した白虎の傷ついた戦士達が登場。
場所は飯盛山。燃える鶴ヶ城を見て、自刃を決断する。
それぞれが辞世の句を読み(恐怖で手は震えている)、自刃していく。
貞吉も辞世の句を読むが、一人残されていることに気付く。
懐剣に手をかけると心臓の鼓動が聞こえる。
「あずさ弓、向かう矢先はしげくとも ひきな返しそ 武士(もののふ)の道」
母親にもらった歌を詠み、刀を自らに刺す。
再び心臓の鼓動が聞こえ、次第に弱っていく。
レクイエムが荘厳に流れる。

2幕4場
貞吉が走り込んでくる。
自刃した白虎の戦士達は、見せしめの為遺体を葬ることを禁じられた為、野ざらしで野犬に食べられ、腐敗している。激しい怒りを覚え、自分一人が生き残ってしまったことへの激しい後悔と罪の意識を吐露する。(アリア)
そこへ千重子の亡霊が登場。我が子の死を願う親がどこにあるかと説く。頼母も登場し、「死の刃を心に秘めて、必死に生きろ」と説く。
会津の血にぬれた旗を抱き(貞雄が季子を抱きしめた様に)、「死あってこその生。生あってこその死」と生き抜くことへの決意を歌う。
貞雄がそこへ登場し、貞吉を抱きしめる。過去との複雑ながらも融和が生まれ、幕が下りる。